三譚 宗一郎という男

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  ◆-- 「汚いわねぇ」 「気にするな」  にやにやするその顔には罪悪感の欠片もなく。どうあっても幽々子と闘いたい理由があるのか、それともただの気紛れか、暇になるのが嫌だったのか。霧雨魔理沙という人柄を知っている者ならば答えは自ずと出るのである。  そもそもその決闘に意義を求めることすらも間違っているようでもあるが。それもまた、彼女の言葉を借りれば「気にするな」ということか。  魔理沙は箒の柄を掴み、鉄棒で言う前回りの要領で器用に一回転した。  そして二度、箒の上で仁王立ちすると高らかに言うのだった。 「さぁて、ケンカだケンカ! 派手にやろうぜ! 楽しくやろうぜ!」 「優雅に、艶美に、力尽きるまで。桜の舞台にその身を擲ち、踊り狂いなさい」  切って落とされた戦いの火蓋は、轟々と燃え盛る互いの戦気に飲まれて消えていった。  そしてその瞬間、限りない沸点の細針を振り切り、一枚のカードに込められた気がオーバーヒートする。  自慢の速力を以て、他の追随を許さぬそのパワーを余すことなく発揮できる最高の距離を取る。  出し惜しむことは選択肢に無く、第一撃が必殺。有りっ丈の力を込めて放つ、霧雨魔理沙の弾幕! 「──魔符 ノンディレクショナルレーザー」  錦糸のように細く伸びていく光の筋が、雲を割き、大気を灼きながら空を奔る。  魔理沙の左手、淡く発光する八卦炉から放たれる幾筋もの光条をその瞳に映しながら、幽々子は妖艶な微笑を浮かべるのだった。  
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