三譚 宗一郎という男

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  ◆--  魔理沙がカードを宣言したのと同時刻。宗一郎は疾駆していた。というより、小さな背中を追走していた。 「おーい、待てって、……おい!」  その背中を呼ぶ声はだんだんと大きくなっていき、最終的には怒鳴り声に落ち着いた。  しかもこの男、剣道具を付けたままではないか。一体何がそうまでしてこの男を駆り立てているのかは定かではないが、面金の向こうで眉を顰めているその表情を見ると、どうにもただの追いかけっこではないようである。  ちなみに怒鳴り散らしながら走る剣道具は、道行く人々の注目を大いに集めた。当の本人は完全に無頓着であるが。 「待てってば……魂魄妖夢!」  そしていよいよ名前まで叫ぶ始末。しかし前を走る少女──妖夢はやはり聞く耳持たず、という風。その少女はと言うとしっかり防具を外しており、追跡者との対照が更に町民の懐疑を煽る。  ちなみに剣道とは無酸素運動であり、身体的疲労はその試合時間とは比例せずに加速度的に蓄積されていく。そんな仕合が終わった直後、防具を着けての全力疾走ともなると、いかに体力自慢な宗一郎でも体が重くなるのを感じざるをえないのだった。  なら外せばいいだろう、その重そうな防具。誰しもそう言うだろう光景だった。 「あー、天谷君だ」 「本当だー。防具で街中を走るのなんて天谷君しかいないしねー」  しかし喧噪の中からそんな会話が聞こえてくる程、その光景は町民にとって非常識ではないらしい。  更に言うとこの男、剣道防具フル装備な為、人物の特定などされるはずがないのだが。  行動一つで人物を特定されることは、良くも悪くも認知度の高さを如実に表していた。もちろん本人に、自覚はない。  
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