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ついぞ宗一郎、ターゲットを見失う。
「……」
茂みに飛び込んだ妖夢を追いかけていったところまでは良かったのだ。面金の向こう側の細い両眸は、確かにその背中を映していたはずだったのだ。
ならばなぜ見失ったのか。
「……痛いな」
宗一郎は防具に付いた泥を払った。しかし全身が盛大に茶色で染められており、払った程度では手が汚れるだけだった。
木の根に躓き、盛大にすっころんだのである。
がっちょんがっちょんと重たい防具を鳴らしながら均されてもいない茂みの中を走っていたのだから、当然だった。
「……さて」
宗一郎は立ち上がった。
どこぞのナイアガラと水量を競えそうなくらい汗をかいていた。おまけに、防具の隙間から泥が入り込んでいる。苦虫を噛み潰して咀嚼したような顔つきを浮かべ、空を仰ぐ。
それでもなお防具を脱ごうとしないあたりは剣道家の魂……云々の問題ではない。
「ここからどうするかな」
手に持った竹刀は、予想しうるこれから起こるあらゆる事態に対して無用の長物。並びに、手持ち無沙汰。することもないし、そもそも何故ここにいるのかすら疑問。
ならばどうするか。止まるか進むかの二択を迫られた時に、天谷宗一郎が選ぶ選択肢はたったの一つ。
「れっつ、ごー」
朴訥で抑揚のない英語をかますと、宗一郎は歩き出した。
がっちょん、がっちょんと鈍い音を立てながら。
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