三譚 宗一郎という男

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◆---     「──という、話でな」  魔理沙さんはさも自身の英雄譚を語り聞かせるかのように胸を張った。  ところがその話は『ドカーンとだな!』『ズバーンとさ!』といった擬音語満載だったので、僕の理解度が凄まじく低いのは悲しいことだ。  挙げ句の果てには『なんちゃらればりえー!』とか『ドラゴンなんたらー!』とか叫び出すのでとんでもない。 「それで──」  ところがそんな聴者を置き去りに、またその口を開く魔理沙さん。  かろうじて、宗一郎と魔理沙さんと目の前の謎の少女二人が登場人物なのは把握できた。というか現段階ではそれしか把握していなかった。  そもそもの疑問としてこちらの美少女な方々がどなたなのか、と問いたいところだが、やっぱり魔理沙さんの話は僕なんかが介入できるほど優しくなかった。  次はどんな話を聞かされることやら、と身構えていると、横から割って入ったのは霊夢さんだった。 「ちょっと魔理沙、あんたの話だと私が一切合切出てこないじゃない。不公平よ」 「おぉ? 私はリアルをありのままに伝えてるだけだぜ」 「僕は一体なにを信じればいいのさ……」  げんなりである。  まぁ、もともと話半分で聞いちゃいたけどさ。  何やら言い争いを始めてしまったトンデモ人間二名を脇に、ベッドに腰掛けていた宗一郎がふと漏らした。 「……俺は、空を飛んだぞ」  へぇ、僕も飛んだよ。この前、宗一郎のおかげでね。もっともこちらはただの落下だが。  そんなことを口にできるわけもなく。  宗一郎はたまに真顔でとんでもないことを言い出すので、空を飛ばれたとか言われることも初めてじゃない。 「今度は何さ、崖から落ちたとか?」 「俺はそんなに間抜けじゃないんだがな」 「どうだか」  僕が肩を竦めると、宗一郎も「やれやれ」と首をひねった。  そして、指さす。  指先は、肩を落として正座している二人の少女のうち、白髪少女に向いていた。 「こいつのせいでな」  
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