三譚 宗一郎という男

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  □       宗一郎は一人、正眼の構えのままで静止していた。      喧噪も過ぎ去り、月が緩やかな下降線を描く深夜半。  「道場破り」の憂き目に遭ったその場所の中心で、一人、静かに。      構えられたままのその竹刀を、ただの一度も振るうことなく。  ただ、静かに。  宵闇の静寂(しじま)に身を任せるように。      その一日を、ゆっくりと吟味するように反芻しながら。     『人鬼──未来永劫斬!』      少女の神速の居合は、宗一郎の巨躯を大空へと打ち出し。     『──貴方にこの剣が見えますか?』      神速をも超越した、幾多の斬撃がその身を刻む。     『……これが、貴方と私の、歴然とした力の差です』      そして地に伏した時、感じたもの。  その業のあらゆる一太刀に込められた、万感の気。  それを剣に乗せることを赦された、彼女の強さ。      ──守りたい。  その本懐の、本質は同じはずだった。同じだと思っていた。……いや、同じだったのだ。  しかし、その想いを貫き、為すに足るだけの力が。  そこだけが、圧倒的に違っていた。     「俺には……守りたいものがある」      ぼそり、呟く声量とは相反する想いの大きさ。  際限なく強まるその想いを、余すことなく全て背負えるだけの強さが。      強さが、欲しかった。      そして今日も、剣を振るう。       Go To Next Fantasy....      
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