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宗一郎は一人、正眼の構えのままで静止していた。
喧噪も過ぎ去り、月が緩やかな下降線を描く深夜半。
「道場破り」の憂き目に遭ったその場所の中心で、一人、静かに。
構えられたままのその竹刀を、ただの一度も振るうことなく。
ただ、静かに。
宵闇の静寂(しじま)に身を任せるように。
その一日を、ゆっくりと吟味するように反芻しながら。
『人鬼──未来永劫斬!』
少女の神速の居合は、宗一郎の巨躯を大空へと打ち出し。
『──貴方にこの剣が見えますか?』
神速をも超越した、幾多の斬撃がその身を刻む。
『……これが、貴方と私の、歴然とした力の差です』
そして地に伏した時、感じたもの。
その業のあらゆる一太刀に込められた、万感の気。
それを剣に乗せることを赦された、彼女の強さ。
──守りたい。
その本懐の、本質は同じはずだった。同じだと思っていた。……いや、同じだったのだ。
しかし、その想いを貫き、為すに足るだけの力が。
そこだけが、圧倒的に違っていた。
「俺には……守りたいものがある」
ぼそり、呟く声量とは相反する想いの大きさ。
際限なく強まるその想いを、余すことなく全て背負えるだけの強さが。
強さが、欲しかった。
そして今日も、剣を振るう。
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