四譚 変容

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    「……平和って、すばらしい」 「コラ渡良瀬、何ボケてるんだー」  ヅラであると専らのウワサの、中年太りした先生の言葉もなんのその。  僕は今、日常を謳歌しているのだ。  学校に行って、机に座って、将来使わないような知識を脳みそに叩き込む。  そんな普通の生活のなんとすばらしいことか。  学校って素晴らしい。  このなんともない普通が僕には一番、性に合ってるんだから。  ああどうせ、僕は普通さ。どこまでもとことん普通を貫いているさ。  普通、月並、淡泊、中庸、凡庸、標準的、一般的、平均的。可もなく不可もなく。特徴も変哲も特技も取り柄もない。  およそ普通という単語の類語を軒並み漁ってみても、そのどれもが僕に当てはまる。  ははは。 「こら渡良瀬ー。何をぼーっとしてるー。……まったく。じゃあゴンザレス、ここ解いてみろ」 「三万五千」 「これ国語の授業だよ、霊夢さん」  変人に囲まれて、僕は面白可笑しくとんでもない毎日を過ごしている。  しかしいかな変人と言えども学校では常識の範疇に留まる。  例えば、かめ○め波もびっくりなレーザービームなんかを出したりしないし、吸血鬼いないし、幽霊とか言わないし、羽も生えない。  学校、素晴らしい。  平和、素晴らしい。  今になって思うと、そうやって平和な日を懐かしむのは、これから始まる壮絶な災難の予兆だったのかもしれない。  後になってみると、そう関連づけたくなるものだ。  所謂、理由という逃げ場作りである。ははっ。 □  
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