第一章

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 合コンで女を誘う顔に使われた透は、途中で抜け出して行きつけのバーに顔を出した。  指定席となりつつあるカウンターの角席に座り、マスターと話しながらビールに始まり、カクテル、焼酎、ウィスキー。  最後にマスターから強引に奪い取ったウォッカのストレートを飲んだ透はさすがに歩けなくなっていた。  普段からお酒に強い透だが、この日は飲み過ぎだった。 「おいおい、透くん、さすがに飲み過ぎだって……。もうやめておきなさい」 「もう少しイケる……って」  カウンターに肘をついて体を支えている透は、一人で立つこともままならない状態だった。 「どうしたの? こんなに酔うなんて珍しい」 「別に……。ただ飲みたいだけ」  理由がないわけではなかった。  合コンに行った先で、昔付き合っていた男が恋人を連れて店に入ってきたのだ。  向こうは透には気付いていないようだったが、透の方は忘れたくても忘れられない相手だ。  忘れる筈がない。何しろ、透の初めての相手だったのだ。  合意とは程遠い関係の始まりだったが、それでも次第に愛情が芽生えたのは否めない。  しかし真剣になる透とは反対に、相手はただ見目のいい透を組み敷き、側に侍(はべ)らせたいだけだった。  透が真剣だと分かると、その気持ちが重いと言って捨てられてしまったのだ。
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