279人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
あっけない終演だった。
遊びだったのだと気付いた時には、手の届くところに相手はいなかった。
それが透が真面目な付き合いをしなくなった一因でもある。
そんな昔の男が、仲良く恋人を同伴して店に入って来たのを目撃してしまっては、平静ではいられない。
今回が透の時のように遊びでないことはすぐに分かった。
今まで何人もの男と付き合っていた男は、決して相手の男に何かをしてやることはなかったのだ。
尽くすのはいつも相手の方で、男はソレが当たり前だった。
それが、その時見た男はドアを開けるところから椅子に座るまで、見たこともないエスコート振り。
大事な物を扱うように、そっと触れる仕草。
透の視界に入ってくる二人の姿は、見たくなくても見えてしまい、自分の時との違いをまざまざと見せつけられるようだった。
居たたまれず、透は適当に理由を付けて合コンの席を抜けたのだ。
「マスター、もう一杯……」
手にしたグラスをマスターに差し出す。
「だめ。飲み過ぎだよ。今日はもう止めておきなさい」
マスターは透の手からグラスを取り上げ、片付けてしまった。
手持ちぶさたになった透は、カウンターに伏せるように倒れ込んだ。
「透くん、大丈夫かい?」
最初のコメントを投稿しよう!