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と、昨日の時点での俺の考えは甘いということを次の日の早朝に思い知らされることになる。
今朝の俺の安眠を奪ったのは部屋のドアを何度もノックする音だった。
のそのそと立ち上がり、ドアを開ける。
「朝っぱらからうるせーな。何なんだ一体…」
「あ、お兄ちゃん!」
血相を変えて詩織がドアの前に立っていた。
「どうしたんだ?」
「それが…結綺乃さん逃げ出したみたいで…」
「は?」
「朝私が起きたときにはもう布団の中はもぬけの殻で…」
「はぁ…」
やはりそう簡単に大人しくなる訳ないか。
昨日の最初の様子をみる限りかなりのおてんばのようだし、すぐにでも逃げ出すとは思っていた。
昨日のうちに逃げなかったのは詩織の密かな優しさからかもしれない。
「まあなんとかなるだろ」
俺自身、千鶴さんには悪いが願ってもないことだ。
こんなくだらない企画からは一刻も早く降りたかったので、企画のメインである結綺乃がいなくなれば企画は終わったも同然。
また元の生活に戻るだけだ。
「なんだ…?」
不意に携帯のバイブが鳴る。
登録した覚えもないのに黒服と書いてあったその着信を取る。
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