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「…もしもし?」
「結綺乃さんの捕獲に成功しました。至急マンションの入り口までお越しください」
「………」
ブッ。プープー。
俺はまだなんの返事もしてないのだが。
要件のみ告げた感情の感じられない低い男性の声に深い溜め息を吐き出し、詩織を連れマンションの入り口に向かった。
「お疲れ様です。結綺乃さんはこちらに」
そこにはロープでぐるぐる巻きにされ放置されている結綺乃の姿があった。
頬を膨らませ不機嫌モード全開といった感じだ。
俺は身を屈め結綺乃に声をかける。
「アンタさぁ…千鶴さんが言ってただろ。あの人マジで裏に顔聞くから自力で逃げるのかなり難しいぞ」
そう。
それは自分に対して言い聞かせている意味もあった。
引き取られて間もない頃、俺も結綺乃と同じように何度かここを抜け出そうとして何度も失敗していた。
どこにいってもあの黒服の人がいて逃げられる状態ではなかった。
ようやく俺が諦め事態が落ち着いたのは引き取られてから一ヶ月後のことだった。
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