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老人はそれだけ言うと「おいくらかね?」と生方に聞いた。
「730円です」
「いつもと同じか。いい加減聞かんでも覚えなきゃいかんな」
「いいんですよ。これも俺の仕事ですから」
「ほっほ。物好きだね」
独特な笑い声を上げると、カウンターにお金を出して「今日も美味かったよ。ご馳走さん」と言って店を出て行った。
生方はその言葉に笑みを浮かべて「ありがとうございました」と言って一礼した。
その言葉があれば客の数なんて関係ない。
生方にとって「美味しかった」は最高の誉め言葉だ。
―――――――――――――
一方、倉本について行った晶はと言うと……
「何でここに来てんの!?」
「あ、何かね、爺ちゃんがここのコーヒーめっちゃ美味いって言ってて。
俺1人じゃ来れないから晶となら一緒に来れるかなって思ってさ」
着いた先はカフェ「APRICOT」。バイト先だ。
倉本は、晶がバイトしている事は知っていても、何処でバイトしているかまでは知らなかった。
得意気に教えてくれる倉本に悪いと思いつつも「ここ、バイト先」と言って掴まれていた手を離した。
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