あの日から

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魔石は魔族に力を与える物。 傷を癒やし、新たな生を育む石。 私は、なんとか魔石の代わりになろうと、 傷ついた者やか弱き者に自分の魔力を分け与えていった。 それも、無駄な足掻きだったというのか……。 「とうとう、独り、か」 静寂が塔を包み込む。 かっては魔王の塔として、魔族のシンボルであったこの建物も今や見る影もない。 荒れた部屋、ひび割れ……まるで廃墟だ。 (寂しい……) もう私は、ずっとこの塔で独りきり。 寂しい。寂しい。寂しい。 いっそ、あの日私も勇者の剣にかかり、死んでしまいたかった。 (誰か……) うなだれ、石造りの床に目をやった時だった。 「……ぎゃ……ほぎゃあ……」 (鳴き声?) 塔の外から、赤ん坊の泣いている声が聞こえてくる。 ああ、だが、これは憎き人間の赤子の声だ。 人間は、嫌いだ。 奥歯を噛み締め、私は声が聞こえなくなるのを待った。 「ほんぎゃあ……ぅぎゃぁ……ぁ……」 (ああ……、段々、小さくなってゆく……) そして、消えた。 私の周りに残ったのは、痛いほどの静けさだけ。 奥歯が、ぎりりと唸った。 気付いたら、私は立ち上がっていた。
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