舞うように

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子供の名前は、チヨにした。 別段、意味はない。 ただ人間らしいのを……と考えて思い浮かんだのがチヨだった。 ミルクの代わりに、魔力を。 その所為か、人間にしては異常なほど早く成長していった。 今や野原を駆け回っているのだ。 ……つい3ヶ月前までは、泣き喚くことしかできなかったのに。 「おい」 「うー?」 まだ幼い瞳が、こちらに向いた。 「そろそろ言葉を覚えろ」 「ぅあ?」 絵本を投げ与えれば、きょとんとした顔。 昔人間共から略奪した物に混じっていた、古びた絵本をまじまじと眺めている。 「いいか、一度しか読まないからな。 分からない言葉は、その都度聞きに来い」 そう言って始めた絵本の読み聞かせは、お世辞にも上手いとはいえなかった。 感情のこめかたなど、分からない。 ただ淡々とした朗読。 それでもチヨは、身を乗り出して私の声を聞いていた。 集中力は、ある方なのかもしれない。 「マオー、この言葉、なあに」 実際、2ヶ月ほどてチヨは言葉を自由に操れるようになった。 たどたどしいながらも、彼女はよく喋った。 塔のこと、私のこと、自分のこと、そして、先に見える村のこと。 その頃から、私はチヨに魔力を与えなくなった。 「自分の食べるものは、自分で調達しろ」 草むらや森に生えた植物や果物。 川に生息する魚。 出来るなら、人間らしい生活をさせてあげたかった。
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