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「だから、家は無理ですよ」
「家も子供が3人いるんだ……これ以上は」
「しかし、事故ではなく自殺だったとは」
「保険金も全て借金に消えたみたいだしな」
そんな大人達の会話を
ただ、見つめていた。
小学生の私に理解出来たのは、二つ。
ひとつめは家に莫大な借金があって、それを苦に
両親が自殺した事。
ふたつめは私がお荷物だと言う事。
親戚の人達が、私をなすりつけあっていた。
そうだよね……
お金もないし、自殺した親の子供なんて引き取りたくないよね……
私はそんな会話を聞きながら、最後に食べたシチューを思い出していた。
「今夜は好きな物を作るわ……何が食べたい?」
「ん~、じゃシチュー!」
「はいはい」
普通の会話だった。
ママはキッチンでシチューを作り、私は包丁で
野菜を切る音を聞きながら宿題をやっていた。
それが日常だったから。
「パパ遅いね」
「今日は残業だって連絡があったの」
「そうなんだ」
出来立てのシチューを
テーブルに並べながら
ママとした会話はいつも通りだった。
「あっ、にんじんは入れないでって言ったのに」
「駄目よ、好き嫌いをしちゃ」
「もう!」
ふて腐れながらにんじんを端に避けながらシチューを食べた。
やっぱりママはいつものように少し困った顔をして笑っていた。
「パパを迎えに行って来るわね」
「わかった~」
私は買ってもらったばかりの携帯をいじりながら返事をした。
「ん、何?」
「ううん……早く寝なさいね」
「わかった」
ママは珍しく私の頭を撫でながら言った。
「やだ、髪がぐちゃぐちゃになるよ」
「ごめんね……」
今、やっとわかった。
あのごめんねは、
違う意味のごめんねだったんだ。
そして、その2時間後に、警察から電話が来たんだっけ……
私は寝たのを起こされて、ずっと夢だと思っていた。
「じゃ、決まりだな」
その言葉で、私は我に返り、また親戚の人達を
見つめていた。
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