ブローチのお礼?

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車の中でいろいろな話をしてくれたおばあさん。 いやいや、そんな事より 私はやたら高そうな車に驚いていた。 向かい合わせで座る車なんて、テレビの中だけかと思っていた。 だけど、ひとつだけ嬉しい事があった。 それは、何年振りかに 「椎名ちゃん」と呼ばれた事。 施設では、呼び捨てだったし、学校では苗字でしか呼ばれた事がなかったから…… 私をちゃん付けで呼んでくれたのは、ママとその時仲良しだった友達だけだった。 何だか嬉しくて、泣きそうなのを必死に我慢していた。 「あっ、ここです」 施設の前で車を止めてもらった。 「ありがとうございます」 「いいえ…私も楽しかったわ」 それが例え社交辞令でも 私は嬉しかった。 「もう、落とさないでね」 「はいはい」 「じゃ、さようなら」 「さようなら」 手を振って、おばあさんと別れた。 もう、二度と会うこともないんだな…… 両親を亡くして以来、 初めて優しく接してくれた大人だった。 「ただいま」 「どこをほっつき歩いていたんだ!さっさと手伝え」 「はい」 ここは施設と言う名の 牢獄だ…… ここだけかも知れないけどね。 体罰はなかったけど、 言葉の体罰はあった。 1番悲しかったのは、 親を馬鹿にされた事。 (借金地獄の末、自殺かよ……馬鹿野郎としか言えないな) ああ、馬鹿野郎だよ! だけど、あんたには迷惑をかけてはいない。 自分のストレスを子供達で解消してるおまえの方が馬鹿野郎だ! とは言えない。 そして何もないまま、 一ヶ月が経とうとしていた。
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