偽りの日常

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何か思い出しそうだが、どうしても考えが纏まらずのままだ。浮かび上がった記憶が少しずつ霧散していく感覚。 そんなモヤモヤを抱えたままテレビを眺める。 丁度いいのか聞き慣れた音楽が流れ出した。今テレビで流れているのは暴れん坊お殿様のオープニングだ。馬に跨がり鞭を振り回しながら砂浜を駆け回っている。 正義が悪を倒すという勧善懲悪なその展開。いつも楽しみにして見ていた。在り来りと言えばそうだが、どこかすっきりするその感覚。 楽しいはずだった。このモヤモヤも吹き飛ばしてくれるかとも思った。この時間が好きなはずだった。 視界がぼやける。 次々と溢れ出す熱い雫。 止まらない。 止まらない。 悲しみが止まらない。 なんでだ? なんでこんなにも悲しいんだ? 誰か教えてくれよ。 俺は何が悲しくて泣いているんだ? 分からない。 理由が分からない。 誰もいない空間で理由も分からずにただ俺はむせび泣いた。 ただ一人で…… 支えてくれる人はこの場に誰もいなかった。
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