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「嫌よ。なんで私が諦めなきゃいけないわけ?結城は最高の逸材よ。見逃せないわ」
この往生際の悪い女であるが、蒼羽蓮華(アオバハスカ)。
彼女はバレーボール部のマネージャーなのだが、なんでも結城が身長も高いし、身体能力も高いため「是非バレー部として活躍して欲しい」と勧誘をしているのだ。
「もう何度も聞いた。でも、結城だって今日で一ヶ月近く断ってんだからさ」
なっ?と、問い掛けるのだが、全く人の話を聞いていない。
彼女は必死に勧誘を続けている。
(結城。残念だがそんな目で見るな)
結城は俺をチラチラと助けを求めるように見つめている。しかし、最早どうしようもない。
(いっそのこと一発叩いてみるのも良いのかもしれないな)
などと思いつき、蓮華の後ろに立って手を振り上げた時だった。
「笹神、鉄麻、蒼羽、何をしてるんだ?早く席に座りなさい!」
名指しで俺たちの名前が上がったことで俺の振り上げられた手は止まり、三人は一斉にそこに視線を集中した。
黒板の前では、既に数学の教師である中村がしかめっ面でこちらを見つめていた。
関わるとめんどくさい事はこの学校の生徒なら誰でも知っている。
その為、なんの反論もなく俺たちは席に着いた。
「ねぇ、悠人!今日の放課後、カラオケ行かない?」
授業が始まってから少しして、微妙に集中力が切れてきた頃。
俺がうとうとと睡魔に飲み込まれそうになっていると、隣の席の未來がふと話し掛けてくるのだった。
「未來。お前には和がいるだろう?あいつと行けば良いだろう」
俺は胸の辺りがチクリとするのを感じた。その疎ましい感覚をまぎらわすように、再びシャーペンの芯をカチカチと出しながら黒板の板書し始めるのだった。
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