序章 海の上にて私は歌う

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 だいたいほなみの予測通り、補習の話だった。ほなみはあらかじめ腹痛の振りをして逃げるつもりだったので、その作戦を即座に決行した。補習なんてやってられない、高校生の夏休みは何物にも代えがたいもので、補習なんて苦行を強いられるのは避けたかった。が。教室から逃げ出そうとした瞬間、出入り口の扉に仕掛けてあったトラップ、網によってほなみは捕縛された。担任はほなみが逃げ出すことを分かっていて、呼びだして逃げられないよう先手を打っていたのだ。そのまま魚のように網ごとトラックで港に運ばれ、強制的にどこかの島の学校へ補習として送り出されることになったのだ。  自分たちと永遠の愛にしか興味のない両親は、優しくもほなみの荷物を事前にまとめていて、ほなみと荷物はそのまま小さな船に乗せられ出発。  そして船が沈没。悲しいことに嵐に遭ったのだった。ほなみは必死にボートに乗った。結果。 「私、海に一人……!」  嵐の難から逃れたものの、そこは太平洋。助けは来ることもなく、ただゆらゆらと波に流されるだけだった。ほなみはどうしたものか、と悩み続けたものの、それもすぐ消える。  穂波の視線の先、その海の向こうに、ぽつんと何かがあるのを発見した。 「あれ、は……?」  ほなみは目を凝らしても見えないそれに、何だろうという疑問を持ちながらも、淡い期待を抱えて、必死にその遠くに見えた何かに向かって進みだした。    これが。  新谷ほなみの夏休みの始まりであり、必然的な夏休みの始まりであった。
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