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「──っ! やめっ!!」
必死で押し返す私の手を、いとも簡単に捻りあげる。
「──ッてぇ!」
眼鏡の奥、瞳の中に見つけた“色”。私は恐怖する。まるで──。
“お前に拒否権はない”
そう言われているようで……。
「──ッ!」
身体全部に力を込め、体の中心部にある男の弱点を膝で蹴る。
「ッ!! くそが!」
降りかかる怒声と共に、バチンと頬を平手打ちされた。
痛くない。痛くないんだ。私は痛みなんて感じちゃいけない。
痛みに耐える男を上手くすり抜け、私は外に出た。
乱れた制服をある程度直し、息を吸い込む。辺りを見回して、簡単なルートを頭の中で検索する。
よし! このルートなら見つからない。
迷わず私は走り出す。
将来なんて考えたことない。
今が楽しけりゃそれでいい。
酒はやるけどタバコはやらない。
妙な所でポリシーがあると言われた。
胸元まで伸びた髪を揺らし、私は走る。
この髪を私は好いてる。
だって、父さんと似てるんだから。
人間の髪は光の加減で少々色が変わる。でも、私はその変化が物凄く大きい。
(強姦は犯罪ですよーだッ!!)
心で叫んでまだまだ走る。もう少し、もう少しで目的地に着く。
「あははっ」
楽しくないのに笑いが漏れる。
「あははははっ」
現在の時刻は午後十一時半。大声で笑えば迷惑な時間。そんなの関係ない。だって、ここは港町。使われなくなったとある倉庫、その扉の前で私は漸く止まる。
「今日はちょっと遅くなったな」
携帯で時間を確認して、錆びた鉄製の扉を押し開ける。
ぎぎィ……という独特の音はまだ慣れない。
「ちわっす!」
御志波由衣(おしばゆい)。高二の夏の、日常だった。
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