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「簡潔に言うと──由衣ちゃんが本当の“ドール”になる前に、うん? ちょっと語弊があるね」
「正確には、“ドール”になる直前か直後だよ、梨恵。まあ、わたしたち的には、“ドール”に成り下がった直後の方がいいけど」
「そうだね、恵梨。その瞬間(とき)に、キミに由衣ちゃんを助けて貰いたいんだよ」
「“魔の手から”という表現があってるかな」
ぐらぐらと脳が揺れる。頭を鈍器で殴られた時と同じカンカク。私は立ち上がる。しっかりと気配と足音を消して、その場から立ち去る。
向かう先は──既に決まっていた。
ソコにしか私の居場所はないんだ。私が創った、私だけの居場所。私の部屋を、マンションの廊下側にしたこと、そして、その廊下と私の部屋に窓があることに違和感を感じなかったのはアキの失態だな。私は、“二度と抜け出さない”とは言ってはいないんだ。
「できない約束は、しない主義なんでね」
ポツリと格好つけてみた。意味はないけれど。窓を開け、窓枠をひらりと飛び越える。廊下に上手く着地した私は一度だけ部屋を覗き込む。
「ちょっとないだだけでいいから、ヒトリにさして」
髪を靡かせ走り出した私は、もう振り返ることはしなかった。ヒトリになりたいのは私。だから出た。それだけのハナシ。
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