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──耳に慣れない筈のこの音がこれ程までに心地好いものだとは知らなかった。
「由衣!?」
驚いたような、萪霧依の声。私は萪霧依に抱きついた。
「萪霧依……お願い、今だけ。じっとしてて……」
「──ったく、何があったか、聞いてほしくねぇなら聞かねぇ。だけどよ、溜め込むな。由衣、お前には、俺たちが居るんだぜ?」
「……ん、わかってる」
萪霧依が私の背に回した手で、赤子をあやすようにぽん、ぽん、とリズミカルに叩く。
(──最悪の場合を考えろ)
どうなるかは一目瞭然だった。今より“堕ちる”。それだけだったから。
それだけは、避けたい。でも、逃げたくはない。どうすればいい? “視える”あの二人が言ったんだ。本気の時の口調で。それは……近い、ということか。
(あンのくそチビ共が……)
アキの“何か”を借りて私を助けてたいのか。アキの“何か”はわからないけど、私は絶対に借りねぇ。借りてたまるもんか。
何かを借りるという行為は、“信頼”の証。例え出会ったばかりだろうが、貸し借りの行為は僅かながらも信頼していなければならない。“返してこなければこいつはだめだな”と切り捨てる選択を残していても、やはり僅かに“信頼”はしている。でなければ、その行為は成立しない。
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