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その意味を知っている者に借りをつくるなんて嫌だ。アキみたいに知らないとか、お人好しならいいけど。
「……なァ、由衣」
「ナニ」
「そろそろ、暑い」
ああ、そうか、もう九月半ばだけど、残暑がキツいもんな。八月とかの方が楽だった気がする。
大分落ち着いたし、離れてやるか。
「ん、りょーかい」
離れて、萪霧依を見る。
「……なー、萪霧依」
「なんだ?」
「“私”のこと好き?」
「ああ、好き」
どうして私は──。
「“私”は必要?」
「必要だ」
「“私”は存在してる?」
「ちゃんとここに居る」
「“私”が憎い?」
「生憎、俺にそこは欠けてる」
──死を、こんなにも望むんだろう。
「“私”を殺せる?」
「ああ、完璧にな」
「“私”がさ、ここに一週間以上来なくなったら……」
「ああ、俺が見つけてやる」
「ん。それで、萪霧依の判断で殺して」
「解ってる」
私はよく思う。“私”が居るこの世界は“本当の私”の夢で、“本当の私”は“本当の世界”で幸せに、“私”のようにならずに生きていて、“本当の私”が幸せな分、“私”が幸せでない。そうなんじゃないか、と。
馬鹿げてる。けど、私にはそう思えてならない。
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