時間

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梼貴に再び背を向け、止めた足を動かす。さて、何を飲もうか。一番近くの自販機にはあまり気に入ったものは売っていない。なら、コンビニまで足を伸ばそうか。 「由衣」 倉庫を出て、十数メートル歩いた所で、梼貴でも、萪霧依でもない声の持ち主が私の名を呼んだ。落ち着きがあって、耳障りの良いバリトン……いつまでも聞いていたいと思わせるこの美声は、大和だ。 「なにー? 大和」 「珍しいな、お前がこの時間帯に出歩くなんて」 「……そうでもないさ、気が向いたから来ただけだし」 大和にじっと見つめられ、わざとらしくないように視線を逸らす。心の中を覗かれているようで、イヤだった。 「嘘」 「ん?」 「気が向いたら来たっていうの、嘘だろ」 「何で?」 やっぱり気づいてるんだな、大和は。それでいて、嘘が付けない。その素直な性格が災いして、周りから弾かれたのに……それでもお前は素直だ。嘘がない。染まらずに、純粋なままだ。 私には、できなかった。綺麗なままで居られることが、できなかったんだ。だからだろうか、彼を守りたいと、思うのは。 「そんなことよりさ、大和。一緒にコンビニ行かね? ノド渇いちゃってさー」 「……そうか、じゃあ一緒に行く」 大和が一瞬見せた寂しげな表情に、ツキリと何かが痛んだ。それが何なのか判らないけど、あまり味わいたくない感覚だと思った。大和には、笑っていてほしいと思った。  
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