13人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
梼貴に再び背を向け、止めた足を動かす。さて、何を飲もうか。一番近くの自販機にはあまり気に入ったものは売っていない。なら、コンビニまで足を伸ばそうか。
「由衣」
倉庫を出て、十数メートル歩いた所で、梼貴でも、萪霧依でもない声の持ち主が私の名を呼んだ。落ち着きがあって、耳障りの良いバリトン……いつまでも聞いていたいと思わせるこの美声は、大和だ。
「なにー? 大和」
「珍しいな、お前がこの時間帯に出歩くなんて」
「……そうでもないさ、気が向いたから来ただけだし」
大和にじっと見つめられ、わざとらしくないように視線を逸らす。心の中を覗かれているようで、イヤだった。
「嘘」
「ん?」
「気が向いたら来たっていうの、嘘だろ」
「何で?」
やっぱり気づいてるんだな、大和は。それでいて、嘘が付けない。その素直な性格が災いして、周りから弾かれたのに……それでもお前は素直だ。嘘がない。染まらずに、純粋なままだ。
私には、できなかった。綺麗なままで居られることが、できなかったんだ。だからだろうか、彼を守りたいと、思うのは。
「そんなことよりさ、大和。一緒にコンビニ行かね? ノド渇いちゃってさー」
「……そうか、じゃあ一緒に行く」
大和が一瞬見せた寂しげな表情に、ツキリと何かが痛んだ。それが何なのか判らないけど、あまり味わいたくない感覚だと思った。大和には、笑っていてほしいと思った。
最初のコメントを投稿しよう!