時間

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  「何があったか、俺は知らないよ」 「……?」 「由衣は今、変わろうとしてる」 「私が……変わろうとしてる?」 言っている意味がわからない。 「そう、少しずつ……本当に少しずつだけど、変わっているんだ」 そんなこと、あり得ない。だって私は、変わるなんてできやしないんだから。 「梼貴は気が気じゃないんだ。由衣が目の前で変わってるんだもん。俺もちょっと寂しいよ。だけど、それ以上に嬉しいんだ。由衣をずっと縛っていた鎖が外れそうなんだ。俺は由衣に助けてもらってから思ってたんだ、いつか、由衣を苦しめている鎖から解き放ってあげたいって……だから」 「大和」 もう何も言わないで。 「私は変わらないよ」 私は変われないよ。 「もし、変わってしまったように感じたなら、それは気のせい」 “変わる”ことは、今までの私を否定することだから。私には、できない。 だから──。 「バカなこと言ってないで、早くレジ並びなよ、私それ買ったら帰るから」 「うん……由衣、大切なものは、見失っちゃいけない。だから人は、強くなるんだよ」 私に大和の言いたい言葉は通じない。大和もそれを知っているのに、伝えることを止めない。どうしてかは、聞かない。きっと、私には理解できないから。 だけど、この時、私が大和の言葉をほんの少しでも理解できていたなら……展開は変わっていたかもしれない。でもそれは、“もしも”の話だ。  
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