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「はぁ、焦りましたねぇ…。」
柚子は林梧の顔を見て思わず苦笑を浮かべる。だが林悟は姉とは裏腹に、怒気と悲しみの入り混じった感情を露(あらわ)にしていた。
「………こうなったのも全部"あいつ"の所為なのに…。何で俺達がこんな惨めな思いしなきゃいけないんだよ…。」
「りっ林梧…っ!」
林梧は母に気を使ってか、姉にだけ聴こえる声量で、柚子の制止も聞かずに感情のままに口を動かし続ける。
「だってあいつの所為で姉ちゃんや母さんがこんなに苦労する事になったんじゃん。…本当なら苦労する必要なんて無いのに…っ!!」
「……林梧」
林梧は悔しげに唇を噛みながら、拳を作りぎゅっと握り締めている。力強く握った為、手のひらからは血が滲み出てきていて、柚子は固く握られたその拳にそっと手を重ねて制止した。
「林梧、拳をほどいて下さい…ほら手のひらから血が滲んじゃってますよ?
心配してくれてありがとうございます。でも林梧は何も心配しなくて良いんですよ。」
「姉ちゃん…でも…っ!」
「2人共~早く食べないと冷めちゃうわよ~?」
「はい、今行きますっ。
…林梧、行きましょう?ほらそんな顔をしていたらお母さんが心配しますよ?」
柚子は微笑みながら林梧の手を傷に当たらないようやんわりと掴み、母の待つ部屋へと向かう。
「……ごめん…姉ちゃん。」
「良いんですよ。」
柚子はもう一度林梧の顔を見て、安心させるかのように微笑んで見せた。
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