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ある寒い冬の夜、
夜明けはまだ、遠い時間。
雪の降りしきる中、少年は老婆に手を引かれ、ただ歩いていた。
漆黒の髪に、感情の起伏により血を連想させる深紅に変わる金の瞳。
人の、いきものに負の感情を呼び起こさせる色と、
人より優れた身体能力を生まれ持つ種族。
『魔族』
そう呼ばれる種族に少年は生まれた。
ただ、それだけ。
人を、いきものを、傷つけるわけでなく。
ただ、生きている種族。
それでも、他の種族は魔族を忌み嫌う。
人は、自分たちにない、秀でたものを持つ者を排斥するのだ、と村の大人たちが言っているのを聞いたことがある。
だから、外界に出るのは初めて。
常に結界によって閉ざされた村の、締め切られた部屋の中で育った少年にとって目に映る物全てが珍しかった。
そんな中でも、ちらちらと空から舞い降りてくる白い物は、一層少年の興味を引きつけた。
「あれは、なあに?」
老婆の『雪』という言葉を小さく復唱してみる。
自分たちが決して持つことを許されなかった『白』
小さな手のひらで溶けてゆくそれは、少年の心に深く、深く染みこんだ。
どれくらい歩いたのだろう。
もう、両の足の感覚もなくなってきた頃、ようやく老婆はその歩みを止めた。
「おばあちゃん?」
真っ白の世界。目指すものなど無いような。
訝しむ少年から手を離し、老婆が振り返る。
「いいかい、黒曜。よく聞くんだ」
こく、と少年はうなずく少年を見、老婆は言葉をつないだ。
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