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素直に謝ったことがとりあえず効を奏したのか、とりあえずディアンはテーブルに付くことを許される。
今日のメニューはベリル特製のリーフブレッドのハムサンドに、新鮮野菜のスープ。
あのいい匂いの元はこれだったのか、とディアンは心の中でほくそ笑んだ。なにしろ、自分の好物ばかりだ。
すべてのメニューを出し終えて、ベリルも席についた。
「あれ?おまえ、まだ食べてなかったのか?」
訊ねるディアンに、ベリルは一瞬不思議そうに弟を見つめ、薄く微笑う。
「君がいるのに、一人で食べたって美味しくないよ。
・・・たった一人の家族、だもの」
言って、自分の発した言葉の恥ずかしさに気づいたベリルが、少し照れくさそうに笑った。
ディアンも、つられて笑う。
そうして、お互いに栗色の髪を掻き分け、その額を___正確には、額に抱く宝玉をふれあわせる。
ディアンのものは闇をとかしたような黒色、ベリルのものは空を写した湖水のようなエメラルド色。
そのふたつがふれあい、淡い虹彩を放つ。
それが、この村での親愛の挨拶。
「おはよう、ディアン」
「おはよう、ベリル」
朝のあいさつは、こうして多少の喧噪を含みつつも、穏やかに交わされた。
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「おいしかった!特にあのスープ!やっぱ、ベリルの料理はサイコーだよなあ!」
ベリル特製朝ご飯をおなかいっぱい堪能したディアンは、ご満悦でソファに転がった。
「はいはい、だってきみの大好物だものね。」
「・・・旅にでても、たべられるかな」
ディアンの言ったひとことで、ベリルは言葉に詰まる。
明朝、二人は旅に出ることが決まっていた。
村の掟で、16を迎えた子供は成人の儀式として旅に出なければならないからだ。
己と同じ宝玉を抱くもの、『対』となる者を探す旅に。
もう二人、同じく16を迎える者たち、幼なじみのローズ、ジャスパーと、共に___。
今は村中が、成人の儀式の準備をしてくれている真っ最中なのだ。
「つくるよ、どこにいても。」
ベリルが優しく笑って言う。
こんな時間が、好きだな、とディアンは想う。
ベリルに言うとつけ上がるから、内緒だけれど。
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