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「――本当によいのかね?
真実かどうかも分からない伝承に身を任せる必要などないんじゃよ?」
暗い室内に老人の声が響く
老人は目の前の男性…外見は四十代後半…と向き合っている
さらに説得は続く
「ワシとしても君のような優秀な仲間を失いたくないんじゃ
生き残った中でも一番の古株の君に逝かれるのは辛い」
老人の説得を片手で制して男性が口を開く
「あなたのお心遣いはありがたいのですがもう決めたことなので
それに……」
「それに?
それに何じゃね?」
急に黙った男性に老人が質問する
「記憶を代償といっても私が消えるワケじゃありません
それにこの歳になってなお、もう一度あの頃に戻ってはしゃげるんですから……安いものです」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに男性は笑った
「フッ
それもそうじゃな」
つられたのか老人も破顔する
どちらからともなく二人が握手し、男性の足元に魔法陣が光る
「……さらばだ弟子にして英雄
『起動』」
ゆっくりと男性が足下から消えていく
「さようならししょ……いえ、父さん」
消える寸前、男性はそう言い残し
「父さんか……クッ……
逝ってこい、我が最愛の息子よ」
老人はその場に泣き崩れた
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