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「鳥になって、空を飛びたい」
そんな、小さな子どものようなことを言った彼は、真っ青な空に向かって両手を広げた。
いつのまにか季節は過ぎ、先ほどから蝉のうるさい合唱が鳴り響いている。天頂に近くなった太陽は光を増し、薄いカーテンでは遮れない程の日差しを狭い教室に届ける。容赦なく当たる日光のせいで、汗ばんだ身体に下着と薄いYシャツが張り付く。いつの間に眠っていたのか、その不快感で目を覚ます。机に突っ伏していたせいで、額を乗せていた左腕は赤くなり、額も少しだけ熱を持っている。
ノートに目をやると、黒板に書いてある半分のところで止まっていた。大きな欠伸を一つし、シャープペンシルを右手で持つ。XだのYだので埋められた黒板は、うまく消しきれなかったのかところどころ白く靄がかかったようになっている。こんな記号ばかりの数式をいくら覚えたところで、将来何の役に立つのだろうか。そう思いながらも、手だけはすらすらとその数式を書きとめていく。人間、暑いとやる気が出ないとよく言うが、それは本当だろう。先ほどから手だけは忙しなく動いているが、いっこうに頭は働かない。ちらりと時計に目をやると、後五分でチャイムが鳴る。
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