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日陰に入っていても、まだ暑い。こめかみを伝う汗を手の甲で拭う。蝉はまだうるさく鳴き続けていた。 「なあ、」  一瞬だけ、風が横を通った。それは彼が動いたから起きた風なのだと、彼が目の前に立っているのを見て気が付いた。 「俺らって、小さいよな」  彼が言いたいのは身長のことだろうか。僕らは同じくらいの身長で、高くもなく低くもない。中学二年生の男子生徒の平均を知っているわけではないが、クラスの中で真ん中に位置するのだからそのくらいなのだろう。 「世界は広い」  空を見上げる彼は、どこを見ているのかぼんやりとした目をしていた。 ああ、身長の話ではないのか。そんなことを頭の隅で思った。 「当たり前だ」  世界なんてものは広い。ましてや、十三、四年しか生きていない僕らにとってみたら、働くことですら未知の世界だ。八年間、のうのうとこの平和な日本で義務とされた教育を受けさせられてふやけた脳は、世界の様々な事実など入ってはこない。  僕の言葉に一瞬だけ驚いたように目を向けると、その視線はまた空に戻された。 「俺さ」  彼の目はぼんやりとしていたさっきとは違って、光が感じられた。
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