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「鳥になって、空を飛びたい」 そんな、小さな子どものようなことを言った彼は、真っ青な空に向かって両手を広げた。にっこり笑った顔が教室でも見たことのないくらい清々しいもので、馬鹿だなと笑い飛ばしてもいいくらい突拍子も現実味もない話だったのに、それができなかった。 真っ白なYシャツが光を浴びている彼から反射して眩しくて、思わず目を細めた。  僕が黙ったままでいると、彼はくるりと背を向けて歩き出した。その足の向かう先は屋上を囲うように張り巡らされたフェンス。白いそれに手をかけると、彼は器用に乗り越えてしまった。彼が特殊なのか、それともここのフェンスが考えなしのつくりなのか、いとも簡単に少年が乗り越えられてしまうこの学校のフェンスに一抹の不安を覚えた。  フェンスの向こう側に降りた彼は、どこを眺めているのか背を向けたままだった。彼が立っている方向、学校の裏手が山でなかったら今頃通報されていたかもしれない。 「ここから飛んだら、気持ちいいかな」  背を向けたままの彼の表情はわからない。だが、声は明るかった。 「そこから落ちたら、骨は折れて血肉が飛び散るだろうな」
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