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 実際に人が飛び降りた現場を見たことはない。けれど、きっとそうなるのだろう。 「そっかぁ。あまり綺麗じゃないね」 「ああ」  僕には、彼が何を考えているのかさっぱりわからなかった。彼はここから飛び降りてしまうのかもしれない。けれど、僕には彼がとても生き生きしているように見えた。だからだろうか、僕は彼を止める気にはなれなかった。  彼の背中を見ていると、首だけがこちらに向けられた。またにっこり笑う彼を見て、落ちると感じた。反射的に立ち上がると、それと同時に彼の手が白いフェンスを掴み、乗り越えたときと同じようにあっさりとこちら側に戻ってきた。  フェンスで汚れた手をぱんぱんと叩く。 「飛ぶと思った?」  先ほど浮かべていたにっこりとは程遠い、人の悪い笑みでにやりと笑う。その顔はとても楽しそうで、思わず立ち上がってしまった自分に小さく舌打ちをする。  罰が悪くて、近づいてくる彼から顔をそらし、横を向く。 「こんな話、笑わずに聞いてくれると思わなかったよ」  何が楽しいのか、ふふっと笑う。こんな奴、躊躇せずに笑い飛ばしてやればよかった。それができなかった過去の自分が憎い。
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