携帯電話

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俺の左腕を掴んだヤツは、俺をズルズル引きずりながら、テレビの画面に向かって歩いて行く。 …ヤツの言う『向こう』とは何だろう? 俺は『向こう』で何をされるんだろう? 少なくとも…もう…『コッチ』には帰って来れないよな… …そんな事を考えながら、ズルズル引っ張られていたが… 急に我に返った。 冗談じゃない! こんな所で俺の人生を、終わらせてたまるか! 考えろ! まだ何か方法があるハズだ! …そうだ。ヤツは言っていた! 『失敗した』と! そうだ…少なくとも先輩を、連れて行けなかったじゃないか! 俺の頭は急に、高速で回転し始めたが… 時すでに遅し。 ヤツは俺を掴んだまま、テレビ画面の中に入ってしまった。 今、テレビ画面の外に出ているのは、ヤツの右腕と俺だけだ。 もの凄い力で引っ張られる。 なんとかヤツの腕を、振りほどこうとするが… 駄目だ。 まるで、くっついているかの様に離れない。 マズい! 引きずりこまれる! その時、俺の左腕の指先から、徐々にテレビ画面の中に、吸い込まれて行った。 !!!!! 何か! 何かないか! 何か方法は! …その時、俺はある事に気付いた。 『テレビの画面を壊したら、いいんじゃないか?』 俺は一か八か、それに賭けてみた。 ふと右手を見ると、まだ携帯電話を握ったままだった。 …何も握ってないよりは、威力が増すだろ。 俺は携帯を握り締めたまま、力一杯、テレビの画面を殴り付けた!
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