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『蝶の夢』につくと、海斗がドレッサーの前で化粧品の確認をしていた。
私を見つけ、やや気まずそうな表情を見せる。
「よお」
私は黙ったまま入り口から動かずにいた。
「ひ、久しぶり。元気だった?」
ようやく言葉を絞り出す。
海斗は少しあっけにとられた表情を浮かべた。
「まだ3日しかたってねぇよ」
口許に笑みを浮かべ、私をドレッサーの前に促す。
私は促されるまま椅子に座った。
「あのさ、こないだはゴメン」
海斗が、メイクをはじめながら申し訳無さそうに言った。
私が首をふると、「動くな」と手で頭を押さえられる。
「俺、焦ってたんだわ。お前の中から和人さんを消したくて。でも、やっぱり無理だったわ」
ファンデーションを塗りながら海斗は笑う。
「そんな事ない」
私は目を開いて海斗を見る。
「海斗がいたから、私は辛い時を乗り越えられたんだよ。本当に感謝してる。
だから、謝らないでよ」
海斗は黙って指を動かす。
私は再び目を閉じた。
この時間が本当に好きだった。
でも、今日で終わるんだ。
改めて考えると胸が切ない。
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