第11章

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「優花、最後にひとつだけ我が儘きいてくれる?」 口紅の筆で唇をなぞりながら海斗が言う。 「何?」 私は目を閉じたまま聞き返した。 「最後にもう一度だけ、キスを」 筆が離れ、代わりに訪れる柔らかな感触。 軽く、小さなキス。 私は目を開いた。 間近に海斗の顔。 「終わり」 海斗は目を細めて笑った。 私は鏡を見る。 いつもと違うナチュラルなメイク。 髪も巻かれず、流されたまま。 幼い私がそこにいた。 「言うんだろ、本当の事。なら本当の姿に近い方がいい」 海斗は私に背を向けたまま、道具を片付けている。 「海斗」 私は海斗の背中にそっと額を寄せた。 海斗は動かずにそのままだ。 「早く行けよ。遅れるから」 後ろを振り向いたまま海斗は呟いた。
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