第11章

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百合の花が赤く染まる。 背中に回した手に、温かい何かが流れる。 「あんたが、あんたが悪いのよ!」 笑いながら叫ぶ女性を通行人が押さえつけた。 私は自分の手のひらを見る。 赤い血。 誰の? 私を抱きしめていた和人がぐらりと崩れ落ちた。 肩が血で染まる。 苦痛に満ちた和人の顔。 「和人さん!」 私は和人を揺さぶった。 「大丈夫…?優花」 和人が苦しげに笑いながら私の頬を撫でる。 その手は血で染まっていた。 肩には切りつけられた深い傷。 「和人さん!和人さん!」 叫びながら揺さぶろうとする私を、近くにいた人が止める。 「動かしちゃ駄目だ!」 「誰か!救急車!」 沢山の人が和人の回りを囲む。 遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。 私は通行人に止められながら、何度も何度も名を叫んでいた。
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