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初めて会った時もそうだった。
高一の冬。
たまたま塾帰りに、若い女と歩く父を見つけた。
父は、家では見せない顔で女性の肩を抱き歩いてた。
はじめて知った父の浮気に、私は激しく動揺をおぼえた。
訳がわからないままふらふらと街を歩く。
雑踏の中に座り込み、膝を抱えて泣いていたら頭の上から声が降ってきた。
「腹、すかねぇ?」
ナンパか。最初はそう思い顔を上げると、そこにいたのは仏頂面の青年。
黒いバッグを肩に下げた青年は、私の横に座ると、バッグから小さな飴玉を取りだし私に突きつけた。
「ほら。食えば?」
変な奴。
そう思いながらも、私は飴を受けとる。
包みを剥がすと、小さな赤い飴がコロンと飛び出した。
そっと口に運ぶ。
いちご味だ。
甘酸っぱい優しい味に、私は彼を見た。
「美味しい」
「そっか」
彼は仏頂面をふっと優しく緩めた。
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