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沢山のお墓。
静かな空気が辺りを包む。
和人はやがてひとつの墓の前に止まった。
「久しぶり」
辛そうに墓に話しかけ、ユリの花を置く。
まさか。ここは。
「これ、俺の奥さん。ゆりって言うんだ」
和人が墓の前に座り込み、私を見上げる。
私は立ち尽くしたまま動けなかった。
「俺の奥さん、二年前に事故で亡くなったんだ。
その時、俺は残業残業で、全然家庭をかえりみない奴でさ。ゆりをかまってやれなかったんだ。
あの雨の日、本当はゆりが出掛けたいって言ってたのに、急な仕事が入っちゃってさ。約束を破ったんだ」
淡々と和人が話す。
「ゆりは、怒りもしなかった。ただ笑って俺を送り出してくれた。
そして、その日に事故にあったんだ。
点滅信号を渡ろうとした時、車にはねられたんだ」
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