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   ただ剣の腕は確からしく、だからこそ余計に面倒な存在らしい。商家を焼き討ちにしたり、同業の角屋を営業停止にしたり、そのたび町民はその黒い影に怯えたものだ。  池田屋の事件があって以来、彼らへの評価は京でもまっぷたつに割れ、「京を守った侍」と「人殺し」のどちらの顔も持つようになった。そしてその頃から、彼らの姿をよく見かけるようになったとも主人は言っていた。  でも、そんなのは私には関係なかった。私にとって彼らは店に金を落としてくれる客でしかない。この小さな、半分料理屋のような店には、お客が来てくれるか、それだけが命だ。  ここを失えば、私は居場所をなくしてしまう。そうすれば、もう生きる術はないだろう。  私にとっては、会うことなんてない、ただの噂の集団でしかない。客として、店を作ってくれる存在でしかない。  人殺しだろうがなんだろうが、それが全てなのだ。 「だぁーっ、もうあいつら好き勝手しやがって!」  乱暴な口調で、しかし囁くような小さな声で吐き捨てながら厨に主人が入ってきた。  
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