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   空っぽになった部屋から、窓の外を眺める。障子を開けた窓の縁に腰を下ろして、ほんの少し、ほんの少しだけ月を眺める。まだどすんと太っている黒い雲の向こうから一時だけ姿を見せる、細い月。  綺麗だ。  この店の人たちは、みんな月を黄色いと言う。  でも、私は違う。私の月は銀色。灰色に近い、銀色。私の色だ。  日がなければ誰かに見られることもできない。太陽から逃げるように、そっと夜だけ悲しそうに現れる。  ため息と共に視線を落とした時だった。  もう夜も更けて人通りもほとんどない店前の通り。ひとりの人と、目が合った。  月の光と、その人が持っている灯に照らされたその顔は、とても幼かった。しかしその装いはどう見ても侍のそれでしかなかった。  私よりも若く見える、その美しく上品な顔立ち。高下駄を履いていても少し低めの背に、腰の刀が余計に長く見えた。髷は結っておらず、上に縛り上げただけ。  彼は、私と目が合っても視線を振り切ることはしなかった。その視線は私を突き刺し、形良い眉を寄せた。  
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