169人が本棚に入れています
本棚に追加
「……おや、足を怪我されたのではありませんか?」
追っ手はそう言って、動けない私の前に回る。もう私ができるのは、俯くことだけだった。
「やはり。こんなところに割れ物を捨てるなんて」
そう言われても、じっと目を瞑る。すると、刺すような痛みがするその足を包む、何かの感触。
そっと目を開ければ、侍のものだろうか、白い手拭いで巻かれた自分の足があった。
「あ……」
「相当深く切っていますよ。連れて行ってあげますから、早く来なさい」
そう言って、こちらに背を向け片膝をついたその後姿に、思わず訊く。
「もしかして、先ほどの窓の……」
「ええ、お会いした者ですよ」
その髷を結っていない長い髪を揺らし、侍はこちらを振り向いた。また、慌てて顔を背ける。
「いいえ、そんなご迷惑をかけることなんてできません」
「そんな足で、どうやって歩くのです」
「いいえ、そんなことよりもどうか、あのお店をなくすなんてこと、お願いですからしないでください」
そう続けると、一瞬間があった。そっとそちらを横目で見ると、侍はぽかんとして私を見ていたが、やがて小さく肩を震わせ笑いをこらえていた。
自分でも感覚でわかるほどに、顔を歪ませる。
最初のコメントを投稿しよう!