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侍は散々笑ったあとそれの名残を残した声で言った。
「……ああ、申し訳ない。言葉の綾です。信じていたのですか?」
「……ええ」
「私は、使いで来ただけですよ。あなたに会いに」
店の方からばたばたと足音がして、主人がこちらに走ってくるのがちらりと見えた。そちらを見た侍が、小さく肩をすくめる。
そして、耳元でささやいた。
「明日のこの時間、あの店に二人になれるとき、もう一度伺う」
侍は走ってきた主人や私に背を向け、風のような速さであっという間に闇に消えた。
「日向(ヒナタ)! ……無事だったか」
「すみません、旦那さん。私が見つかってしまったばっかりに」
「何もされてねえな? 怪我は」
「走っていて、足の裏を切っただけです」
主人は私の言葉に眉根を寄せたが、足に巻かれた手拭いにため息をついた。
「血ぃ滲んでんじゃねえか。……しかしまあ、殺しに来たわけじゃなさそうだったな」
「はい。それに怪我だって大したものじゃなかったですし、これを巻いてくれたのはあの方です」
「馬鹿やろ。お前に残る傷つけたなんてお前の父親に言ってみろ。俺が殺される」
主人は言ったとたん私を方に担ぎ上げる。小さく悲鳴を上げた私に、笑った。
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