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   私は、商家に生まれた。比較的裕福な、繁盛している店だった。  私には、兄と妹がいたという。兄は店の跡継ぎとして修行している身、妹は奉公先で得た縁談の元、嫁にいった。  きっと二人は、私のことを知らない。生まれてすぐ、私は家の一室に閉じ込められ、母がそこにこっそり来て世話をしてくれた。兄には、私は死産だったと伝えているらしい。幼いながらに、彼は相当悲しんでくれたらしかった。  私は部屋からほとんど出られなかったものの、奇跡的に病気にかかることもせず、ほぼ普通の子どもと変わらずに成長した。だからこそ、今何も体は不自由なく暮らせている。  誰にも見られてはならない子ども。家の災いとなるもの。それなのに両親は、私を隠しながらも育ててくれた。存在を認めてはならない子どもだったかもしれないのに。兄に嘘をついても、私を殺しはしなかった。  両親はどんなにか苦しんだだろう。悲しんだだろう。  どうして、私が生まれてきたのだろう。どうして、私を捨てなかったのだろう。私を生かして、他人に預けた。閉じ込めることもなく。  私は、一度だけ自力で外に出たことがあった。  
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