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   夏の日だった。窓の外から入ってくる光があまりにも強くて、私はその格子を掴んだ。まだ幼かった私がどうしてそんなことができたのかわからないが、その格子の一部があっさり壊れてしまったのだ。  ちょうどそれは日が昇り人々が動き始めた時間で、唯一私を監視していた母がいない時だった。光がまっすぐに目を刺して、視界を失ったかのように真っ白だった。その中で所々に落ちたように光る日の欠片が美しかった。  気がつけば、私は立ち上がって、窓の枠に足をかけていた。格子があったから出られなかっただけで、それは幼い私でも十分に上れる高さだったのだ。  そこに立ち上がり、私は生まれて初めて全身に日光を浴びた。  そこは家の庭に面した窓で、誰もいなくて静かで、でも遠くから小さく人と人とが織り成す音が聞こえてきた。  私は本当に嬉しかった。ただ単純に、新しいことに出会ったから嬉しかったのだと思う。私のそれまでに、新しいことなんて滅多に訪れないものであったから。  けれど、それがいけなかったのかもしれない。  
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