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   夕暮れの光は、いつ見ても綺麗だ。それがたとえどんな場所であっても、それを見るのがどんな人間であっても、太陽は同じだけの美しさを私たちに見せてくれる。  夏が近づく梅雨の重たい湿っぽい空気が、私の体を包んでいるのに、ほんのわずかな雲間から差し込むその真っ赤な、涙が出そうなくらい優しい光は、私の目を刺さない。  ゆっくりと、いつも俯きがちに私は歩く。でも、足元を照らす光があまりにも赤いとき、私は観念してやっと顔を上げるのだ。  私の目はきっと、太陽の光でいっぱいになっている。それがたまらなく愛しくて、そして悲しい。  まだ何も入っていない空の大きな樽を胸元に抱えなおし、私はまた視線を地面に落としながら足早に酒屋を目指した。  夜になれば、たくさんのお客が酒を求め、女を求めてやってくる。日が落ちたあと、まるでその力を吸い取っていたかのように赤く輝く町。今はまだひっそりとその勢いを秘め、まるで閑散としている。  ここは、京の都に程近い、島原。  
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