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   きしむ階段を一段一段ゆっくりと下りる。摺り足で急ぎ、そっと戸を開けると、同じ笑顔で侍は立っていた。 「わざわざ申し訳ない」  そう言って入ってきた侍は、上がり口にすとんと腰を下ろした。 「昨日は驚かせてすみません」  後ろ髪を揺らし彼は言った。慌てて私は頭を下げる。 「私、日向と申します。昨夜はたくさんご迷惑をおかけして、何とお礼を申し上げたらよいか」 「堅苦しい挨拶はよいのですよ。こちとらただの浪人ですからね。身分高いわけでもありませんし」  朗らかな、優しい声だった。  彼は、深沢憐(フカザワレン)と名乗った。 「憐……」 「はい」 「綺麗な、名前ですね」 「男にはどうも柔らかい名前ですけどねえ」  憐は笑って言った。優しい、親しみやすい空気を纏った彼は、それでも盗み見ると近寄りがたい綺麗さを持つ。二重だが涼しげな瞳、しかし髷を結っていないからか、幼さが残る。肌は少しだけ人より白く、それが細い指先に良く似合った。 「それで、用件というのがですね」  憐は続けた。 「あなた、少し前に誰かから傘をもらいませんでしたか」  
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