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予想外の質問だった。
私は下を向いたまま、息を飲んだ。思ったよりもずっと鋭く吸われたそれが、音をたてた。
「お持ちなんですね」
ああ良かった、と憐は楽しそうな声で何も答えていないのに言った。ちらりとそちらを見てみれば、やはり昨日の通りの綺麗な顔が、子どものようにほころんでいる。
あの傘の侍は、決してこの人ではなかった。
「あの」
「はい?」
「どうして、そのことを……」
自分でも情けないと思う弱々しい声に、彼は答えた。
「あの方、私の上司なんですよ。それであの方がこういうことで動いて、余計な騒動に一般人巻き込んじゃいけないからと、私を使いに出したのです」
「え、え?」
「敵が多い、というか妙に目をつけられやすい立場なのでそれだけでも関係性を求めて手を回す輩もいるかもしれないということです」
雨の中、去っていった後ろ姿を思い出した。黒い羽織が雨に濡れてさらに色を増した、大きな影のような背中。私に心を砕いてくれた侍の、どう見ても自分より身分が低い私に傘をさしかけてくれた侍の、私を刺した大きな目。
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