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   あの侍は、濡れて帰った。私が濡らせて、帰らせてしまった。それは私が決してしてはならないことであるのは間違いなかった。  かくりと膝をつく。どうしたのです、と問う憐に、頭を下げる。  沈黙が、流れた。 「……お許しくださいませ」  自分の声が、みっともなく滑稽に部屋に響いた。 「私、何も存じ上げずに、大変なことを。申し訳ありません。本当に、どうお詫びすれば良いか」 「お待ちなさい」  だんだんと震えてきた私の声を、凛とした彼の言葉が止めた。 「とりあえず、立ってください」  しかし続いたのはあっけらかんとした言葉で、その表情も微笑さえ浮かべていた。どうすればよいのかわからなくなって、言われた通り立ち上がる。  憐は私を元の座っていた場所へ促した。 「座ってください。私は別にあなたに何を言いに来たわけではないのですから」  全身の力が抜けた。  体の中の全ての空気が外に出たのではないかと思うくらい大きなため息が自然に溢れて、私はそっと憐の隣に腰を下ろした。  
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