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すうっと、背筋が冷たくなっていくのがわかった。
「一度、きちんとお顔を見てから帰りたいのです。覚えておくために」
「……」
心臓の音が頭まで響いている。私は真っ白になった頭の中身をなんとか縫い合わせようと必死だった。
「……私が生まれてすぐ、占いのお告げがありました。私は二十まで人様にはっきりと顔をさらしてはならない、そうでなければ私は死ぬと」
何て、惨め。自分が悲しくて、私はさらに下を向く。
「ですから、申し訳ありません」
顔を上げることは、できなかった。こんな子どもがつく嘘のような言い訳を、憐が信じるとは思えなかった。
しかし、こぼれでた死という言葉は思ったよりも彼に印象を与えたらしかった。
「……それは大変失礼なことを」
小さく唸り、彼は立ち上がる。座ったままの私を、何も言わずに見下ろしているようだった。
私よりも二寸三寸、背が高いだけのはずの憐が、なんだかとても怖かった。
憐が何を見ているのか。憐が何を感じ、思っているのか。知るわけはないがだからこそ。
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