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   早足はやがて駆け足に変わり、私は目的の店を訪れた。  ずっとひいきにしているこの酒屋は、いつも四十過ぎのあまり言葉の印象も良くない小男が、一国の主のように奥に鎮座している。 「いらっしゃい」  そう言って振り向いた主人は、客が私だとわかったとたんに顔を引きつらせ、貼り付けた笑顔を全部投げ捨てた。 「……いつものやつか」 「お願いします」  主人は私が土間に置いた酒樽をひったくるようにして、中に乱暴に酒を注いでいった。多少こぼれているように見えるのは気のせいではないと思う。  どすんと大きな音をさせてまた土間に置かれた酒樽を見、金を払う。 「さっさと出てってくれ」  まるで汚いものを見るかのような主人の目。  いや。私はきっと、本当に彼にとったら汚い、気味が悪いものなのだろう。 「……いつも、どうも」  主人は私の言葉にも、反応を返すことはなかった。  敷居をまたぐと、私はできるだけ早足で店から離れる。後ろで主人が出てくるのがわかった。どうせ、塩を撒くためなのだ。  私は、振り返る勇気がなかった。  
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